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留学生が国立民族学博物館の特別展「ことばの不思議を科学する」を見学!大阪ハイテクノロジー専門学校
大阪ハイテクノロジー専門学校 日本語学科の留学生が11月11日(金)、大阪府吹田市・万博記念公園の国立民族学博物館で開かれた特別展「Homō loquēns『しゃべるヒト』~ことばの不思議を科学する」(9月1日~11月23日)を見学してきました。この博物館は文化人類学・民族学の研究とその成果を展示公開する博物館活動を一体的に行うことができる唯一の存在で1977年に開館しました。今回の特別展は言語学が中心ですが、文化人類学、工学、脳科学、認知心理学、医学、歯学など国内外のさまざまな研究者が協力していると伺い、興味津々で行ってきました。
国立民族学博物館の教授で言語学を研究し、今回の特別展を企画された菊澤律子先生が特別に案内してくださいました。先生からの最初の質問は「言葉の展示ってどんなものだと思う?」という問いかけでした。確かに言葉は目に見えませんし、身近にあるためわざわざ考えることもないと思います。学生からは「ジェスチャー?」「音楽?」などの答えがでてきました。
展示では日本語と英語、日本手話の3言語が解説言語になっているため、来日間もない留学生も英語からヒントを得ることができました。また、すべての展示物には言語のひとつである「手話」の解説映像が流れており、障害のある方でも楽しめるよう工夫がされていました。
言葉を発するときの肺、声帯、口の中の仕組み
展示内容は「言葉が伝わるしくみ」、「言葉を発する身体のしくみ」、「言葉を身につけるしくみ」に分かれて考える展示になっていました。「言語」を展示として見せるために、来館者が見て考えられるようなコーナーが多く取り入れられていました。留学生に日本語を教えている私が最初に興味を持ったのは、「言葉を発する身体のしくみ」です。
例えば、言語を発する際の声帯や肺がどのように動くのかについて、実際にMRIの画像で解説されていました。日本語を勉強している外国の方で母語に「つ」の発音がない方(例えば韓国の人)にとって、この「つ」は難しい発音の一つです。前から見た口の形は「す」も「つ」も同じですが、音が違います。いつも口の中の様子を手を変え品を変え説明するのですが、なかなか大変です。MRIの画像を通してみると、肺、声帯、口の中の仕組みが理解しやすいようになっていました。
大阪の「難波」「千里」「天下茶屋」は、書くと「なんば」「せんり」「てんがちゃや」で、同じ「ん」と書きますが、音はそれぞれ[m]、[n]、[ŋ]で、口の中の形は明らかに違います。こちらもMRIの画像を使って説明されていました。また様々な形をした吹き出し口に空気を送ることで「あ」「い」「う」と母音を発する模型もあり、体験的に理解することができました。
手話言語の多様性 口話が奨励されていた時代も
菊澤先生から「手話」についてもお話を聞くことができました。手話は万国共通ではなく、その土地で生まれてきたもので、さらに標準語に相当する日本手話とは別に地方の方言もあると聞き、驚きました。手話は手で表現するだけではなく、表情、それに空間を使って、方向、例えば「誰が誰に」なども動きで表現する多様性のある言語です。
手話の歴史をみると難しい時代もあったようです。ほんの十数年前まで、教育現場では手話は口話の妨げになるという考えから、相手の口の動きで言葉を読み取り、口の形と音声で表現する「口話」が奨励され、手話が禁止されていたそうです。口元だけで音を読み取るのはどんなに難しかったでしょう。
障害者基本法の改正で、今は言語は手話を含むとされ、ニュースでも見かけるようになりました。若者向けのドラマでも取り上げられることがあります。展示では日本手話を読み取って日本語に翻訳するアプリの開発が進められているとありました。
留学生たちからは様々な感想が聞かれました
特別展を見て、学生たちは色んな意見・感想を持ったようです。特に、展示の後半にある20名の方の『私の言語ヒストリー』という動画を見た感想が多く寄せられました。ここでは言葉とのかかわり方に変化があった人、例えば、病気や事故で話せなくなった方などのコミュニケーションの物語を見ることができました。
ある学生は「展示会を見て、普通に話せることがとても幸運なことだと思った。でも、話せない人も手話やボディーランゲージを使い自分の考えを伝え、会話を成立させている。きっとその中には多くの努力が費やされていると感じた。この展覧会で私は社会の中の人のやさしさや思いやりを感じた。そして、自分の健康な体をもっと大切にしたいと改めて思った」とコメント。
別の学生からは「展示会で手に取った『耳が遠い子供との付き合い方』についての本を読み、障害がある子供でも、良い家庭環境があれば問題なく成長させることができるのだと気づいた。聾唖(ろうあ)の方のコミュニケーションが難しいのは間違いないが、手話の出現と発展で聾唖の方の生活が少しでも普通の人の生活に近づける社会になってほしい」と期待する声も。
一方で、「障害を持つ方のために点字や手話ができ、翻訳アプリや声を文字に変換できるアプリもでてきている。でも、ロボットはロボットだと思う。そのアプリは確かに便利だと思うが、人の代わりにはならないのではないだろうか。人とは感情を持っている生き物だからだ。手話とともに顔の表情や体の動きにはその人の気持ちが表れていると思う」という感想もありました。
常設展の見学や万博公園の散策も
国立民族学博物館には常設展、世界の諸民族の生活を知る衣食住に関わる標本、DVD、映像、文献図書などもあります。特別展の後、常設展も見学しました。
また博物館は万博記念公園内にあるため、公園内の散策も楽しめます。ちょうど「紅葉祭り」の最中でしたので、公園の中を歩いてきました。日本留学試験、日本語能力試験の直前ではありましたが、自然に触れることもでき、息抜きもできたようです。
(大阪ハイテクノロジー専門学校 日本語学科 山上 直子)